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キャンプホリックの一人話談

街を走り、山を登り、キャンプして遊ぶ、の巻

deshabillz

かつて『デザビエ』というバンドが活動していた事を知っている人は少ないかもしれないが、デザビエは僕の周りでは今でもしょっちゅう話題に上る伝説的バンドだ。

1990年代前半に活動していたバンドなので、今から30年近く前の話になってしまうんだけど、その頃はヴィジュアル系バンドブームで、漁っても漁ってもどんどん溢れ出してくるような勢いで本当に色んなヴィジュアル系バンドがわんさかいた。

 

面白い時代だったと思う。

演奏の巧さとか楽曲の良さとか音質とかはとりあえず置いといても良くて、肝は『バンド名』と『ヴィジュアル』と『歌詞の世界観』

この3つだと自分は思っていた。

歌詞に関しては、すんなり読んでもなんの事を言ってるのか全く分からないくらい難解な方がいいだろう。

尚且つ、くどくない程度に普段使わないような熟語を混じらせる。英語は一切なくても良し。

『実体の見えない奇妙なからくり仕掛けの失恋劇』とでも言うべきか。

それがヴィジュアル系の独特な空気感を醸し出す演出に適しているように思える。

 

バンド名とヴィジュアルと雰囲気がセットで上手く行っていれば、当時ならそれだけである程度の人気が出たんじゃないだろうか。

もちろん、格好と名前と文字の響きだけでアーティストになれるなら誰も苦労はしない。

数えきれないほどのバンドの中で頭角を出して確かな評価を受ける人達は技術・努力・ヴィジュアル共にしっかりとした実力を備えたバンドだったんだろうけど、その一方でここまで話したヴィジュアル系バンドの手法とは一線を画した形で強烈なインパクトを僕に与えてきたバンドも数多くいて、僕は当時そういうバンドを夢中でかき集めてた。

なんていうか、僕の中ではミュージシャンというよりある種のエンターティナーで、とは言えCDで聴くわけだから耳から来る情報で受け止めるんだけど、ただ音楽としてだけの印象で捉えてしまうと、何これぜんぜん良くないって思ってしまう人が大半になってしまうかもしれない。

でもそれはとてももったいない。

『こんなバンドよりこっちの方がぜんぜん良いじゃん』みたいな気持ちは完全に取っ払って、ナンセンスを柔軟に取り込める許容性を持つことが大切だと思う。

そもそも音楽はそうやって聴いた方が良いものが心の中で見えてくると思う。

僕は当時『メリーゴーランド』というバンドが好きだったんだけど、このバンドの人達は顔面にこれでもかというほどピアスをしてて、顔中にヒゲが生えてる外国人をたまに見かけるけど、あのヒゲくらい顔にピアスが刺さりまくってた。

その容姿だけでビックリしちゃうけど、彼らの楽曲の特徴は変拍子、そして音が厚くない。

音に厚みがないと言うと聞こえが悪いかもしれないが、ジャキッジャキッとしたタイトなサウンドだった。それがまたバンドの奇天烈なカオティックさを際立たせていて、他にはないゾクゾクさを感じさせてくれたバンドだと僕は思っている。

そしてDeshabillz(デザビエ)

これはもう本当に知っている人しか分からない話なんだけど、僕らの間ではあのバンドほど90年代初頭のヴィジュアル系バンドブームのあり方を体現していたバンドはないんじゃないかと語り草だ。

少なくても僕らが知っているバンドの中では彼らがNo. 1なのは確か。

あのバンドはこの曲が良かったとかそう言う事じゃなく、デザビエはデザビエという言葉の印象からも来る恐ろしげな世界観を確立させていたところがまずすごいと思う。

よくわからないけどデザビエはデザビエっぽい。デザビエの前にデザビエのようなものはなかっただろうし、デザビエの後にもデザビエはいないだろう。

 

彼らのセカンドアルバムは『精神離脱者』というタイトルで発売されていた。

ちなみにファーストは『神従者』

このタイトルだけでも腹に溜まるものを感じないだろうか。

僕は精神離脱者の紙ジャケのを持っていた。

昔から紙ジャケがあるなら必ずそっちを買う事にしているんだけど、この精神離脱者を聞けば開始3秒でデザビエが分かると言っていいだろう。

CDを再生するやいなや突然『神は死んだぁ、精神離脱した今死んだぁ』というボーカルの語りでスタートする。

それもなぜかふてぶてしいくらいの言い方で。

ファーストの神従者の方も語りから始まるし、だいたいどの曲も最初はボーカルだけの語りから始まる曲が多かったが、ファーストの方はボソっとした言い方でよく聴いてないと何言ってるか分からなかったが、セカンドになると語調を強めていきなり言い放ってくる。

ビックリする。

曲の事も色々言いたいが、デザビエはそれに尽きると言ってもいい。そこに凝縮されている。

曲の出だしの語りにデザビエの濃縮果汁が120%含有されている。

あえて歌や楽曲のことを言うなら、よくボーカルになる事を他のメンバーが良しとしたな、と思いたくなるほど下手だ。

アルバム3枚目4枚目くらいになると歌もやや聞きやすくなってはいたけど、流れている音楽に違う曲の歌を唄ってるように思えるくらい、それが本当に下手なのかメロディセンスに癖がありまくるのか分からないけど、歌よりもステージ上でのフロントマンとしての存在感がすごいとか、言い出したら利かない人だからとか、とにかくあのボーカルでそれなりの年数バンドを続けてたのもデザビエのすごいところだ。

でも、きっと盤面だけじゃ分かりようのないカリスマ性みたいなものを近くにいたメンバー達は感じ取っていたんだろう。

デザビエは『五月雨か冷酷か』のVHSも持っていたので、本編の後半部分にメンバーの自己紹介映像があったのを知っているんだけど『天才ボーカリストのSHUNです』と言っていたので、かなりの自信家であることは間違いないと見える。

天才ボーカリストかどうかは分からないが、ファーストアルバム『神従者』の一曲目の【影絵の中で】という曲の歌詞を知った時の衝撃は今でも思い出せる。

 

『憎しみの相手を細かく砕いて、頭の中身を引きずり出してしまいたい』という一節がある。

引きずり出して殺したいだったかもしれないが、重要なのは憎しみの相手を細かく砕くところだ。

僕は嫌いな相手を殴ってやりたい、あるいは殺してやりたいと思った事はあるけど、細かく砕きたいと思った事は一度もない。

第一どうやってどのくらい細かく砕くんだ。

ゴマじゃないんだから。

 

そういう表現もデザビエらしくてとても良いと今は思う。

今でも友達と酒を飲みながらデザビエの良さについて話したりするけど、デザビエがとっくに解散しているバンドだってことが残念でならない。

是非デザビエに復活して頂いて、あの良さをたくさんの人に知ってもらいたい。