へべれけ探偵
飲んで帰って気がついたら朝だった…。という日は珍しくない。まるで覚えちゃいないがちゃんとベッドで寝れたんだから良かった…。と思いつつも、たまになにこれ?ってものがベッドの周りに散らばってたりする事もある。
だいたいがコンビニの弁当だ。
松屋の定食が枕元に置かれてる時もある。
食べ物や飲み物ならまだいいが、どこから持ってきたのか見知らぬお守りがテーブルに置いてあった時は変な寒気を感じた。お守りの横にはパチンコのスロットで使うような銀色のメダルも置かれていたっけ。
自分はギャンブルをまったくやらないので、これもまた謎である。
でも、なにかを持って帰ってくるだけならまだ良いほう。
最悪なのは知らない間に怪我をしているケース。どこだか分からない道端で目覚めるのも最悪だけど、それで財布とかを盗まれた事が俺の場合は一度もなかったので怪我が一番怖い。
過去に一度それで大怪我をしてしまった時に奥様の方から雷のように怒られて以来、わけがわからなくなるまで飲み続けるのはやめるよう心に誓った。
俺は大きな声でしゃべる事が苦手なので、飲み屋は静かでこじんまりとした所を選ぶ。
飲みの席で仕事に関する上下関係の話や仕事の出来栄えの優劣の話を耳にするのもキライなので、腰をおろす店は非常に限られている。
それでも、いやそうだからなのか、気がつくと酩酊しているわけだ。
お会計をしてもらって、さて帰るか…と席を立つと足元がおぼつかない。
それでも意識はハッキリとしている。
次の日の事を『あれして、これして…』と色々考えたり、これからのスケジュールを忘れないように書き込んだり、落ち着いた気持ちで楽しくおしゃべりしながら帰っているのに、それなのにいつもハッ!と気がつくと朝になってて飲んでた時の事はほとんど覚えていない。
足元がおぼつかなくなるほど飲んでるからダメなんだと言われて、それなら2時間しか飲まないし飲む量も4杯までにする、と決めてサクッと帰る。もちろん足元はビンビンしっかりしてる。
それでも昨日飲んでる時なに話してたっけ?と考えるとあんまり覚えてない。
きっと自分という人間はアルコールで記憶が消えやすいんだ。アルコールは消毒作用があるけど、俺の記憶まで一緒に消してしまっているんだろう。
始まりは酒を飲んでないんだから当たり前にちゃんと覚えてる。帰り際も覚えてる事が多いが、途中の記憶がスコンっと抜けているんだ。あっても途切れ途切れ。
これは酒飲みミッシングリンクだ。
そんな自分と似た感覚の人と高円寺にあるとあるバーで飲んでる時に『へべれけ探偵』を閃いた。
酔っ払って泥酔している探偵ではない。
酔っ払って記憶を失った人の依頼を受けて、その人がどこでなにをしてどんな足取りを辿って帰宅したのかを推理しながら、証拠を集めて答えを見つけ出す記憶専門の探偵だ。
失くした記憶の道筋を探し出してくれる名探偵。
もしへべれけ探偵がいるなら俺が飲み屋を出てから帰宅するまでの道のりと、その道中での出来事を推理してもらいたい。
名探偵へべれけが登場してくれたら、俺がこないだ失くした家の鍵を俺の記憶と共に見つけ出して欲しい…。